認知症の親が「家に帰る」と言う理由|夕方の帰宅願望への対応を施設長が解説

認知症の親が家に帰る理由|施設長の介護ガイド 在宅介護

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「そろそろ家に帰らないと」。ここが自分の家なのに、夕方になるとそわそわして、玄関へ向かう。

認知症の親御さんのこんな様子に、戸惑っている方は少なくありません。「ここが家でしょ!」とつい強く言ってしまい、あとで落ち込む方もいます。

この記事では、介護歴20年の現役施設長が、認知症の親が「家に帰る」と言う理由と、家族ができる関わり方をお伝えします。

結論から言うと、「帰りたい」は安心できる場所に行きたいという気持ちのあらわれであることが多いです。否定するより、まず気持ちを受け止めること。そして、家族だけで抱え込まないことが大切です。

認知症の親が「家に帰る」と言うのは、よくあることです

認知症の方が、自宅にいるのに「家に帰る」と言ったり、外へ出ようとしたりすることを、介護の現場では「帰宅願望」と呼びます。

特に夕方から夜にかけて落ち着かなくなることが多く、「夕暮れ症候群」と呼ばれることもあります。

これは、認知症による「行動・心理症状」(BPSD)のひとつです。本人のわがままでも、あなたの介護が悪いからでもありません。施設でも、毎日のように見られる様子です。

「家に帰る」と言う3つの理由

帰宅願望の理由は一人ひとり違いますが、現場でよく見られるのは次の3つです。

認知症の親が「家に帰る」と言う3つの理由の図解

① 今いる場所が「自分の家」と思えない

認知症になると、記憶や、「今がいつで、ここがどこか」という感覚(見当識)があいまいになることがあります。

そのため、長年住んでいる家でも、「ここは自分の家ではない」と感じてしまうことがあるのです。本人にとっては、知らない場所にいるような不安な気持ちです。

② 帰りたいのは「昔の家」や「安心できる場所」

「帰りたい」という家は、今の家ではなく、生まれ育った家や、子どもが小さかったころに住んでいた家であることも多いです。

本人の心の中では、その時代に戻っていることがあります。「帰りたい」は、安心できる場所に行きたいという気持ちのあらわれとも言えます。

③ 夕方は「帰らなきゃ」の時間だった

夕方は、昔なら夕飯の支度や、子どものお迎え、仕事から家に帰る時間でした。体にしみついた「帰らなきゃ」という気持ちが、強くなりやすい時間帯です。

さらに、夕方は一日の疲れが出たり、外が暗くなって不安になったりしやすい時間でもあります。空腹やトイレ、のどの渇きなど、体の不快が重なっていることもあります。

やりがちな対応と、おすすめの対応

「家に帰る」と言われたとき、家族はどう返せばよいのでしょうか。

「家に帰る」と言われたときのやりがちな対応とおすすめの対応の図解

やりがちなのは「否定」と「説得」

  • 「ここがあなたの家でしょ!」と否定する
  • 「もう夜だから無理」と理屈で説得する
  • 玄関に鍵をかけて無理に止める

どれも、ご家族が一生懸命だからこそ出てしまう言葉です。ただ、本人は「わかってもらえない」と感じて、不安や焦りがかえって強くなることが多いです。

おすすめは「気持ちを受け止める」こと

  • 「どうして帰りたいの?」と気持ちを聞く
    「子どもが待っているから」「ご飯を作らないと」など、理由がわかると、声のかけ方が見えてきます。
  • 「帰りたいんだね」と、まず受け止める
    正しいかどうかより、本人の気持ちに寄り添う言葉を先に。
  • お茶を一杯、ひと息つく
    「お茶を飲んでから行きましょうか」と、気持ちを切り替えるきっかけを作ります。
  • 一緒に少し外を歩く
    止めるより、少し一緒に歩いて戻ってくるほうが、落ち着くことがあります。

どの方法が合うかは、人によって、日によっても違います。うまくいかない日があって当然です。

夕方を落ち着いて過ごすための工夫

帰宅願望が出る前に、夕方を過ごしやすくする工夫もあります。できる範囲で試してみてください。

工夫 ポイント
暗くなる前に明かりをつける 部屋が暗くなると不安が強くなりやすい
昼間に体を動かす 散歩やデイサービスなどで、昼と夜のリズムを整える
夕方に「役割」をお願いする 洗濯物をたたむ、野菜の下ごしらえなど、昔の習慣に近い作業
体の不快を先に解消 トイレ、水分、軽いおやつで、空腹やのどの渇きを防ぐ
夕方の刺激を減らす テレビの大きな音や、人の出入りを少なくする

医療の分野でも、認知症の行動・心理症状には、薬より先に環境の調整やケアの工夫を優先することが基本とされています(日本認知症学会など6学会が監修した、かかりつけ医向けのガイドライン・2025年改訂)。

家族だけで抱えないための相談先

帰宅願望への対応は、毎日続くと本当に疲れます。一人で抱え込まず、頼れる先を使ってください。

家族だけで抱えないための相談先の図解

急に強くなったときは、かかりつけ医へ

帰宅願望や夜の落ち着きのなさが急に強くなった、夜も眠れない日が続くといったときは、かかりつけ医に相談してください。体の不調や、薬の影響が隠れていることもあります。

ケアマネジャー・地域包括支援センターに相談する

介護保険のデイサービスやショートステイを使うと、夕方の時間や家族が休む日を分担できます。

まだ介護保険を使っていない方は、お住まいの地域の地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口)に相談してみてください。

夕方〜夜の見守りを頼みたいときは「保険外」のサービスも

介護保険のヘルパーは、使える時間や内容に決まりがあります。「夕方から夜まで、そばにいてほしい」という希望は、介護保険だけでは収まらないことが多いです。

そんなときは、全額自己負担の保険外(自費)の訪問介護を組み合わせる方法もあります。介護保険のサービスと併用でき、時間や内容を家族の希望に合わせやすいのが特徴です。

たとえば「イチロウ」は、24時間365日対応の保険外の訪問介護サービスです。夜間の見守りや長時間の付き添いにも対応していて、相談は無料です。

※料金の目安は、日中1時間3,740円から、夜間(18時〜翌9時)1時間4,488円から(税込・1回2時間から・交通費別。2026年9月時点・公式サイトより)。
※ 対応エリアは、東京・神奈川・埼玉・千葉・愛知・大阪・兵庫・京都の一部地域です。エリア外の方は、ケアマネジャーに「自費で頼めるヘルパーはいますか」と聞いてみてください。

保険外サービスの料金や選び方は、介護保険でできないこと一覧|ヘルパーに頼めない家事と困ったときの補い方で詳しくまとめています。

外に出てしまうのが心配なときは「見守り」の準備を

帰宅願望から、一人で外に出てしまうこともあります。見守りカメラやGPS、地域で捜す仕組みなどは、認知症の親の見守り方法|徘徊・事故を防ぐ対策を施設長が解説で紹介しています。

施設長の本音

施設でも、夕方になると「そろそろ帰ります」と、荷物をまとめて玄関へ向かう方がいます。

そんなとき、職員は「帰れませんよ」とは言いません。「お帰りになる前に、お茶を一杯いかがですか」「今日はもう暗いので、明日の朝にしましょうか」。そう声をかけて、隣に座り、昔の話を聞かせてもらいます。

「子どもが学校から帰ってくるから」。そう話していた方が、昔の子育ての話をしているうちに、表情がやわらいでいく。そんな場面を、何度も見てきました。

ただ、これは職員が交代しながら、仕事としてできることでもあります。ご家族は、毎日、24時間向き合っています。うまく対応できない日があるのは当然です。

「帰りたい」と言われるたびに傷つくのは、それだけ大切に思っているから。どうか自分を責めないでください。家族以外の人の手を借りることは、手を抜くことではありません。ご家族が笑顔でいられる時間を守ることも、介護を長く続けるための大切な工夫だと、私は思っています。

まとめ

  • 認知症の親が「家に帰る」と言うのはよくあること。特に夕方に多く、「夕暮れ症候群」と呼ばれることもある
  • 理由は、①今の家が自分の家と思えない ②帰りたいのは昔の家・安心できる場所 ③夕方は「帰らなきゃ」の時間
  • 否定や説得より、「どうして帰りたいの?」と気持ちを受け止める。お茶を一杯、一緒に少し歩くのも一つの方法
  • 夕方前に明かりをつける、昼間に体を動かすなど、夕方を過ごしやすくする工夫も
  • 急に強くなったらかかりつけ医へ。ケアマネ・デイ・ショートステイ、必要なら保険外サービスも使って、一人で抱え込まない

「帰りたい」と言われたとき、どうしてあげればいいのか。その答えは、本人の気持ちの中にあります。そして、ご家族が少しでも楽になる方法を選ぶことも、同じくらい大切です。

「夕方から夜だけでも、誰かに来てほしい」と思ったら、まずは無料の相談で、どんな頼み方ができるか聞いてみるところから始めてみてください。

※対応エリアは、東京・神奈川・埼玉・千葉・愛知・大阪・兵庫・京都の一部地域です(2026年9月時点)。

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よくある質問

Q. 「家はもうない」と本当のことを伝えたほうがいいですか?

事実を伝えると、本人が大きなショックを受けたり、同じ話を何度も聞くたびに悲しい思いを繰り返したりすることがあります。多くの場合は、事実を正すより、気持ちを受け止める声かけのほうが落ち着きやすいです。ただ、本人の性格や状態によって合う方法は違うので、迷うときはケアマネジャーやかかりつけ医に相談してください。

Q. 施設に入ると、帰宅願望は強くなりますか?

環境が大きく変わる入居したばかりの時期は、帰宅願望が強く出ることが多いです。職員との関係ができて、生活に慣れてくると、落ち着いていく方も少なくありません。入居前に、本人がなじんでいる物(写真や愛用品など)を持ち込めるか、施設に相談してみるのもおすすめです。

Q. 夜中に一人で外に出ようとしたら、どうすればいいですか?

まずはけがや事故を防ぐことを優先してください。玄関のセンサーや見守りカメラ、GPSなどで気づける仕組みを作る方法があります。夜間の対応が続くと家族の体がもたないので、ショートステイや夜間の見守りサービスについて、早めにケアマネジャーに相談しましょう。

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